リアルな振動体感を記録・再生するための触覚信号処理

リアルな体感を伝える振動フィードバック:知覚特性の理解に基づく体感振動の信号処理

スマートフォンやゲーム機などに搭載される小型の振動デバイスは、広帯域の振動を生成することが難しく、体験の質は限られます。本研究はヒト振動知覚特性に基づき、任意の振動波形の感覚を維持しながら小型デバイスでも再生可能な信号に変換する感覚等価変換技術を提案しています。これにより、音響域を含む高周波波形を振動に変換し、従来よりも格段にリアルな体感を実現します。

感動レベルの触覚体験をデジタルで再現する――新技術ISMとは?

はじめに:触覚も“配信”できる時代へ

スマートフォンの登場で映像や音楽はいつでもどこでも楽しめるようになりました。しかし、「触覚」だけは、いまだにデジタルでリアルに届けるのが難しい領域とされてきました。
そんな中、東北大学 大学院情報科学研究科 昆陽研究室では、感動レベルの触覚を再現する振動フィードバック技術を開発しました。しかもこの技術は、たとえばスマートフォンなど、既に広く普及しているデバイスで再生することができます。

触覚メディアの課題

ハードウェアの壁

現在、触覚を感じさせるには、ゲームコントローラーなどに搭載された大型の振動子(アクチュエータ)が使われています。しかし、スマートフォンなどのモバイル機器では薄型・小型の振動子しか搭載できず、再現できる触覚には限界があります。
  • スマホの振動子:80~230 Hz程度の再生帯域(iPhoneの場合)
  • 高品質な触覚再現にはより広帯域が必要
この帯域の壁こそが、触覚メディアの最大のボトルネックでした。

感覚等価変換技術「ISM」

昆陽研究室が提案するのは、「ISM(Intensity Segment Modulation)」という独自技術です。これは、人の知覚特性に基づいて、元の振動信号を感覚的に等価な形で変換する手法です。

ISMのポイント

  • 本研究室が明らかにした高周波振動の包絡成分の知覚を再現
  • 信号を短いセグメントに分割しながら知覚インテンシティ(知覚量)を維持しながら、振動子が再生可能な形に変換
スマホでは再生できない高周波の触覚情報も、ISMを通せば“感じた感触”はそのまま、小型振動子でも再現可能になります。

技術の実証と受賞歴

この技術は、国際会議 IEEE WHC 2021 で発表され、AsiaHaptics 2022 Tokyo SatelliteではBest Demonstration Awardを受賞するなど、専門家からも高く評価されています。
この技術の強みは、すでに普及するスマートフォンやVRデバイスで利用可能という点です。例えば,iPhoneの場合、10億人以上のユーザーに向けて、動画やゲーム、広告などにリアルな触覚体験を配信できるようになります.
現在、「TouchStar」というプロジェクト名で事業化にも取り組んでおり、技術ライセンス先や事業パートナーも募集中です。